リバースエンジニアリングの流れ
「3Dスキャン」によりサンプルの表面が点群データとして読み取られ、点を繋いだ多角形の集合体として形状化されます。そのデータ(STLデータ)を使って製品を造形(出力)することができるのが「3Dプリンタ」です。
一方STLデータは「3DCADデータ」に変換することで現物と同じように滑らかな曲面をもつ3Dモデルをつくることができ、それをもとに形状変更などの設計を行ない製品図面を起こしたり、機械加工データ(CAM)に変換し切削加工を行なうこともできます。

データをかたちに、3Dプリンタ
「3Dプリンタ」は、リバースエンジニアリングにおいてとても有効な加工方法です。スキャンした形状データ(STLデータ)をそのまま出力(造形)することができるため、工数が少なく、また造形に使用できる素材が多種多様に揃っています。
ABSやPCといった汎用的なプラスチック素材から、炭素繊維入りの高強度ナイロンや、PEEKなどのスーパーエンプラまで様々なフィラメントを、製品の使用環境や要求性能に合わせて選択できます。意匠性が求められる製品であれば、光硬化性プラスチックを用いて微細で滑らかな形状を再現することができ、透明色の製品をつくることも可能です。また金属3Dプリンタで出力すれば、金属部品をつくることもできます。
スキャンしたデータからそのまま造形できることは大きな利点ですが、データを編集することで形状を変えられるという利点もあります。プラスチック部品の試作から量産まで幅広く手掛ける関東製作所では、お気に入りのクリスマス飾りを3~5倍の大きさにしてファッションショーで使いたいというお客様の依頼に、リバースエンジニアリングで応えました。
スキャンしたデータを求めるサイズに拡大、不要な部分(飾り付けのフック)を削除する等のデータ編集を行なった後、3Dプリンタで製品を造形しました。※写真の製品は表面処理を行なっています。

MFG Hack by 関東製作所.「プラスチック製品の製作工法『3Dプリンター』が活躍するシーンとは? 造形方法ごとの特徴を知る」,出典_2023.2.20.
https://mfg-hack.com/plastic/4930/
微細なこだわりや風合いを再現、射出成形
関東製作所では、リバースエンジニアリングで革の質感をプラスチックで再現することも手掛けられました。
制作の基点となった手作り試作品には、革の質感や縫製など細部にまでデザイナーの意匠が行き届いており、これらを忠実に再現する方法として、リバースエンジニアリングによる「射出成形」が選択されました。試作品をスキャンし全体の形状をデータ化、革の質感の再現には、金型に施すシボ加工のパターンを厳選、縫製の始点と終点にある糸の結いは、金型職人の熟練の「彫り加工」により再現されました。
デザイナーがこだわった質感は、外観の意匠だけではなく、手触りも含めた風合いでした。関東製作所では豊富な成形経験から、革に近い風合いを表現するための成形材料として「エラストマー」を選択しました。エラストマーはゴムに近い弾性と、熱可塑性プラスチックとしての優れた射出成形性を併せ持つ素材のため、金型職人渾身の微細加工を製品面に転写でき、見事イメージ通りの製品を量産することに成功しました。

射出成型ラボ by 関東製作所.「リバースエンジニアリングから射出成形品を製作 – レザー調ダストボックス –」,出典_2023.2.20.
https://injection-lab.com/commodity/13.html
多様なモノづくりを可能にする技術
リバースエンジニアリングは、単に既存品の形状を複製する手法ではなく、製品開発の初期にかかる時間・コストを削減し、自由な発想やこだわりを製品に反映することを容易にしてくれます。
また、周辺のテクノロジーや匠の技と融合することで、モノづくりの可能性を広げてくれる技術でもあります。
記事制作協力:㈱関東製作所