公開日:2024/04/03

最終更新日:2024/04/03

水を使わず染料を除去!究極の繊維製品サーキュラーエコノミー

世界の産業廃水汚染の約20%は繊維産業に起因していて、最近は、繊維製品の大量廃棄も大きな問題となっています。そんな繊維製品の生産量の半分はポリエステル製なのですが、そのポリエステル繊維製品から、水を使わずに染料を取り除き、すぐに再プリントしてリユースができるという、夢のような技術「ネオクロマト加工」が開発されました。

「ネオクロマト加工」とはどんなもの?

生地の脱色したい場所に、弊社の薬剤 「ニューソルブ UC」 を付けて、紙を重ねて加熱します。すると、染料はそのまま置いた紙の方へと移動し、繊維の色は消えて真っ白になります。

紙にインクなどを付けて、下部を液体に浸すと、液が染みて上部に上がっていくに連れて、インクも移動するペーパークロマトグラフィーという分析法があります。
それと同じような染料の移動が、この加工でも起こっているので「ネオクロマト加工Ⓡ」と名付けました。

ポリエステル繊維は水に溶けない分散染料で染めているので、塩素系の漂白剤でも色は抜けません。
これまでの抜染では、工場で重金属化合物や強いアルカリ剤を使い、その薬剤を落とすために何度も水洗いする方法が普通でした。
大量の水と薬品を使い、何時間も掛かっていた処理がわずか数分でできるようになりました。

ネオクロマト加工による抜染の様子を、動画で是非ご覧ください。

画像提供:日華化学株式会社

染色と脱色をつなげるイノベーション

いま、繊維加工のデジタルトランスフォーメーションが急速に進んでいます。ポリエステルの染色やプリントでは、分散染料のインクで紙に印刷し、熱をかけてポリエステルに昇華転写する方式が広まっています。
これまでの繊維のプリントは、型を作って何度も色糊を重ね塗りし、熱で定着してから余分な糊を洗い落として乾燥するという長い工程が必要でした。
昇華転写法では、水を使わずにわずか1分くらいでプリントが完了します。廃水もなく二酸化炭素の排出量も大きく削減できます。使う装置もアイロンと同じような熱プレス機だけなので、染色工場でなくてもオフィスや家庭で気軽に好きなデザインに染めることができるようになりました。

「ネオクロマト加工Ⓡ」も、昇華転写と同じ装置・同じ温度で脱色する技術です。染色された製品から色を抜き、もう一度好きな別のデザインをプリントするという工程を連続して、ごく短時間で行えます。
また、脱色とプリントを何度も繰り返すことも可能です。この技術は、「布地の色や柄の変更による再利用を可能にするポリエステル布脱色技術」として、crQlr Award 2022(サーキュラーアワード)を受賞しました。

画像提供:日華化学株式会社

ネオクロマト加工プロセスから再プリントまで

MO-SO(妄想)から生まれたアイデアが形に

東京オリンピック2020が、コロナ禍で翌年に延期になったときには、準備された大量の繊維製品はどうなってしまうのだろうと心配になりましたね。 イベント会場や店舗に使われる、のぼり旗・垂れ幕などのサイネージの布も役目が終わるとすぐに廃棄されてしまいます。
この様な各種の問題を解決する為に、「ロゴや文字を読めなくすることができれば、アップサイクルしやすい」というデザイナーの鷺森アグリさんの着想を得て、繊維加工用薬剤の国内トップメーカーである私たち日華化学㈱と、プリント基板製造のスタートアップ企業のエレファンテック(株)の杉本雅明副社長が一緒に、その検討を始めました。

そうした中で、日華化学社内の MO-SO(妄想)ミーティングという有志が、遊び心で集まった部外活動の中で、仕事後に集まって、自発的にアイデアを持ち寄り、繊維のアップサイクルに挑戦しているうちに、偶然、何かできそうな方法がみつかりました。
染料が滲んでロゴがぼやけて読めなくすることができたのです。そこでぼかし加工と名付けました。それが面白いと試行錯誤を繰り返していくうちに、やがて完全に消せる技術にまで発展していったのです。
「ニューソルブUC」の UC は、アップサイクル(Up Cycle)の略です。

画像提供:日華化学株式会社

MOSOミーティングの様子(写真中央3名中の左側が杉本氏)

サーキュラーエコノミーの実現に向けて

こうした開発経緯、取組みの中で、2023年には、サーキュラーシティ蒲郡のチャレンジフェスティバルというイベントで、地域の方々にTシャツの脱色と再プリントの実体験を通して、繊維製品の環境課題にも触れていただきました。

この技術で使われるのは、毒性がなく生分解性にも優れた安心して使える溶剤だけです。染料も薬剤も紙で自動的に回収されるので、サーマルリサイクルすれば廃棄物は残りません。環境のことを考えると使う量もなるべく減らしたいので、私たちはこの薬剤の販売を目的とはしていません。

オープンイノベーションの活動から、男性用ウィッグの新製品という意外な用途にも展開しています。
このネオクロマト加工を使って世の中を一緒に変えていこうというパートナーを広く求めています。サーキュラーエコノミーにつながるアイデアがありましたら、是非お知らせください。

画像提供:日華化学株式会社

サーキュラシティ蒲郡チャレンジフェスティバルの市民ワークショップ

お問い合わせ

profile

松田 光夫

<所属>日華化学株式会社 界面科学研究所フェロー
<専門分野>界面コロイド科学 分子集合科学
界面科学の研究開発を永年担当してきました。思いがけないことが起こる界面現象の面白さを多くの人に伝えたいと思っています。