CO2排出量削減と安定調達、
出光SPSによるエンプラのサステナビリティ

プラスチック素材のサステナビリティに向けたアプローチとして、リサイクル・バイオマス・減プラなどが汎用プラスチックの用途分野で良く聞かれますが、能率的で一貫した原料調達と製造方法で、環境負荷の低減とともに安定調達も可能にする「高性能エンジニアリングプラスチック」があることをご存じでしょうか?

出光興産が展開するエンプラ事業

出光興産といえば「石油」がイメージされる、1911年の創業以来石油の販売を行なっている、国内第2位の言わずと知れた石油元売企業です。
中東などの原産国から輸入した原油から、日本各所の製油所でガソリンや灯油、軽油などの燃料を製造し、日本中に展開している傍ら、燃料とともに製造されるナフサから、エチレンやベンゼン・トルエン・キシレンなどの基礎化学品を生産しています。

それらの基礎化学品をベースにプラスチックの製造も行なっており、出光では、PC(ポリカーボネート)と、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)の2つのエンジニアリングプラスチックを展開しています。
本コラムで取り上げる「サステナブルな高性能エンジニアリングプラスチック」とは、1985年に出光が合成方法を開発し、世界で唯一出光が製造しているエンプラである「SPS」となります。

SPS(シンジオタクチックポリスチレン)の特徴については、以下の表およびプラ図鑑の「SPS-plaplat」をご参照ください。

シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS):XAREC™ | 出光興産,出典_2023.10.16.
https://www.idemitsu.com/jp/business/ipc/products/sps/index.html

SPSの安定供給性

世界で出光しか製造していないなら、何かあれば安定調達が難しくなるのでは?とお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、前述のとおり石油元売りの出光は、上流の原料調達を基盤事業としています。
更にSPSの原料となる基礎化学品の精製・SPSの製造に至るまで、一貫生産体制を構築しています。そのため、一部副資材の外部調達は行なっているものの、複雑なバリューチェーンを有する他のエンプラと比較して、安定供給に強みがあると言えます。

以下の図にもあるように、出光によるSPS生産は、原料となるスチレンモノマーの製造およびSPSの合成を、日本とマレーシアの2工場で行なっており、年産1.8万mtの生産能力を持ちます。また、コンパウンドの製造は、日本・米国・欧州・中国の4局で行なっており、成形材料として年間4万mtを世界中に供給できる体制を確立しています。

シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS):XAREC™ | 出光興産,出典_2023.10.16.
https://www.idemitsu.com/jp/business/ipc/products/sps/index.html

SPSのCO2排出量削減効果

他のエンプラからSPSに置き換えることで、以下のようなCO2削減効果が期待できます。

①プラスチック使用量削減によるCO2削減
SPSは他のエンプラまたはスーパーエンプラと比べ、比重が低い素材です。
SPSの代表グレードにはGF30%強化・難燃性V-0(1.5mm)で 比重1.38~1.42 という品番があるのに対し 、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)のGF30%・V-0(1.5mm)品は、比重1.57 ほどで、難燃材の種類によってはそれ以上のものもあります。また、PPS(ポリフェニレンサルファイド)は難燃材を添加せずにV-0性能をもつスーパーエンプラですが、GF30%となると比重は1.57 ほどになります。
PBTやPPSから「SPS」に切り替えることで、10%以上の部品軽量化が図れ、その分のプラスチック使用量削減になるのです。

②シンプルな素材製造工程によるCO2削減
プラスチックが製造される工程で発生するCO2の重要ファクターとして、電力使用が挙げられます。
PBT、PPS他汎用エンプラ、スーパーエンプラのほとんどは、「重縮合反応」を起こしてポリマー化する工程で、副生成物、不純物が多く発生し、これらを除去するのに相当の電力を使用します。
一方、SPSのポリマー化を行なう「重付加反応」では、副生成物が出ないため除去に要する電力も発生しないのと、生産工程そのものがシンプルなため、総じて少ない電力使用量で生産を行なうことができるのです。

出光の試算では、他のエンプラからSPSに置き換えることで、プラスチック使用量削減により20%以上、シンプルな生産工程により50%以上の、CO2削減効果が期待できるという事例もあります。

SPSと、次の一手を

これまでSPSの安定供給性とCO2削減効果についてお伝えしてきましたが、元来SPSは軽量性に加え、耐熱性、耐加水分解性、誘電特性といった優れた物性が評価され、要求性能が厳しい自動車内装部品や、家電・日用品の分野などでも採用されている高性能エンプラです。

更にSPSは、出光興産が全社で進めるサステナビリティの取り組みの中で、将来的にバイオマス由来原料やケミカルリサイクル原料の適用も視野に入っています。
製品CFPの削減に向けて素材を見直す際、材料コストが上がってしまうPCR材や、バイオマス、減プラといった製品仕様や設計の変更を伴う新規材料以外に、製造における使用電力が少なくCFPの低い、且つ安心できる供給体制と、多分野での採用実績が豊富で信頼性が高い、更に低CO2排出に向けた次の手も控えている素材を、検討候補にされてみてはいかがでしょうか?

記事制作協力:出光興産㈱

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plaplat編集部

化学品専門商社:長瀬産業グループのメンバーを中心に構成。
専門領域であるプラスチックを基軸に、サステナビリティを実現するためのソリューションと、業界を横断した情報を展開する。