天井に耳あり
全国内拠点の産廃排出状況を調査した結果、「天井の耳」の排出量が極端に多いことが判明しました。
弊社の主力製品である自動車内装部品のほとんどは、ポリプロピレン(PP)をはじめとする樹脂の成形品です。実際、車に乗って壁面を手でなぞってみると金属よりも、樹脂や布地に触れることが多いと思います。これらは事故発生時にクッションとなり乗員を保護する役割を担っています。そして天井も、基材であるウレタン発泡体をガラス繊維で補強し、布地で仕上げられた柔らかい複合材でできています。これが「ウレタン天井」です。
ウレタン天井は製造時にまず、食パンのような板状に成形され、そのあとでパンの「耳」にあたる部分を切り落とされて製品となります。
実はこの耳 ――「天井端材」が、全国内産廃の76.2%を占めていました。
画像提供:河西工業㈱
残存価値
これまで天井端材はマテリアルリサイクル不可能とされており、年間1,000トンもの端材がサーマルリサイクルされてきました。
マテリアルリサイクルといえば廃材の分別がまず第一に求められますが、図に示すように天井端材はウレタンやガラス繊維など、様々な材質が積層されてできているうえ、すべての層はしっかり接着されて一枚板になっており、これを素材ごとに分離することは非常に困難です。
その一方で端材をそのままの形でリサイクルするというのも無理があります。パンの耳をどう組み合わせても元のパンに戻すことはできません。分離も無理、そのままリサイクルも無理。
さらに天井端材の端末部からはガラス繊維が露呈しており、流行りのアップサイクルにも向いていません。
――しかし我々はふと思いました。樹脂成形の分野において、ガラス繊維は樹脂の剛性を高める補強材としてよく知られています。長繊維であれ短繊維であれ、樹脂に練りこめば大なり小なりの補強効果が得られるのです。樹脂成形を生業とする弊社だからこそ享受できる残存価値が、ここにあるのでは……?
画像提供:河西工業㈱
廃材を材料に
天井端材を樹脂に混ぜるためには粉砕するしかない、とりあえず丸ごと粉砕してみよう、という単純な発想から開発は始まりました。
ガラス繊維を含む廃材は大抵の粉砕機メーカで嫌がられますが、それでも協力いただけるメーカーを発見。粉砕試験に立ち会った我々の目の前で、天井端材は見事、粒径数ミリの粉体に姿を変えました。これだけで、さっきまで厄介な産廃だった天井端材が「材料」に見えてきます。
――しかしその後、我々はすぐに思い知りました。粉体のままでは使い物にならない。粉体と樹脂をそのまま混練しようとしても材料投入口でホッパブリッジを起こして詰まってしまう上、短かく砕かれたガラス繊維が体中に突き刺さり、とても取り扱える代物ではなかったのです。
粉体は固めてペレットにしなければならない。そう悟った我々は独自の実験、ネット検索、展示会調査を経て造粒技術にたどり着き、天井端材をペレット化することに成功しました。
そして端材ペレットを樹脂ペレットとドライブレンドして二軸押出機で混練し、新たなるリサイクル材が誕生しました。
この材料は予想通り、射出成形に向いた剛性の高い物性バランスを持っていることもわかりました。
ご興味のある方は、下記へご連絡ください。
<担当部署>
河西工業株式会社 営業本部 グローバルセールス&マーケティング部
山口 力也 E-mail: yamaguchi-rikiya@kasai-group.com

画像提供:河西工業㈱
そして世界へ(連れて行ってください)
2023年9月現在、我々はこの新しいサイクル材を使用した製品の開発に奔走しています。
また、ここまでは天井端材を樹脂に混練することを前提にしていましたが、実はこの天井端材、他の形でも使い道が考えられています。たとえば粉砕した粉を不織布などの袋に詰めると、吸音材や断熱材として使用できることが分かっています。
――ただ、問題がひとつ。原料となっている天井端材は、日々大量に排出されています。仮にこれをすべて樹脂と混練しリサイクル材を生産すると、国内だけで年間3,000トン以上の樹脂材料ができてしまうことになり、用途開発が追い付いていないのです。そこで弊社は現在、自動車業界だけではなく様々な業界でこのリサイクル材のニーズ調査を行なっております。
是非、貴社のニーズをお聞かせください。