生分解性プラスチックとは
ポリエチレン、ポリプロピレンといった汎用プラスチックは自然界で分解せず、環境中に廃棄されたプラスチックの多くは蓄積されます。プラスチック製品の著しい普及に伴い、1970年代に廃棄プラスチックの環境への悪影響が社会問題化し、生分解性プラスチックの開発研究がスタートしました。
セルロース、デンプン等の天然高分子の多くは生分解性を示しますが、熱可塑性を持たないためにプラスチックとして利用できません。上市されている生分解性プラスチックの多くは、微生物あるいは酵素で分解されるエステル結合を有する脂肪族ポリエステルです。
生分解性プラスチックの主たる用途として、マルチフィルムに代表される農業・土木資材、食品残渣(生ごみ)収集袋、カトラリーやストロー等の食品容器・包装材料が挙げられます。これらの製品が生分解性プラスチックでつくられていることを識別できる表示制度があり、日本バイオプラスチック協会が定めた基準をクリアしたものに「生分解性プラマーク」が表示できます。
ペットボトルに用いられるポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)もエステル結合を有するポリマーですが、自然界でほとんど分解されないために生分解性プラスチックに含まれません。

日本バイオプラスチック協会.「生分解性プラ識別表示制度」,出典_2023.2.20
http://www.jbpaweb.net/identification/identification-biodegradable/
代表的な生分解性プラスチック
生分解性プラスチックは、石油由来のものとバイオマス(生物)由来のものに分けられます。
代表的な生分解性プラスチックである「PLA(ポリ乳酸)」は、光合成により二酸化炭素を固定化した植物(バイオマス)を原料に製造されるため、ポリ乳酸の燃焼や生分解により二酸化炭素が大気中に放出されても、二酸化炭素量は増えません。米国では、Nature Works社がトウモロコシ由来のデンプンを原料に、年産14万トンのプラントでPLAを生産しており、タイや中国でも大規模に製造されています。
最近、海洋生分解性プラスチックとして注目されている「ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)」は微生物産生ポリエステルであり、ある種の微生物が細胞内にエネルギー貯蔵物質として蓄積します。1990年代にICI社(イギリス)により生分解性プラスチックとして実用化されましたが、プラスチックとしての性能が不足し、高価格であったため、他社に事業が譲渡され、その後、カネカ社が別の種類のポリヒドロキシアルカン酸(PHBH)を実用化しました。カネカ社のPHBHは、現在実用化されているプラスチックの中で、最も高い海洋生分解性能を示します。
コハク酸とアジピン酸から製造される「ポリブチレンスクシネート(PBS)」は、昭和高分子社が生分解性プラスチックとして実用化しました。近年コハク酸の発酵合成が工業化され、三菱ケミカル社とPTT GC社(タイ)の合弁会社がバイオPBSとしてタイで製造しています。BASF社(ドイツ)は「生分解性ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)」を工業化し、最近は中国や台湾でのPBATの工業生産が活発化しています。

生分解性プラスチックの今後の動向
欧米では生ごみを自宅でコンポスト処理することが多く、生分解性プラスチック製のごみも同時に堆肥にできます。一方、日本では一般家庭の多くにはそのような設備が無いため、生分解性プラスチックの用途が限定されてきました。
PHBHは嫌気発酵によりメタンガスが発生するため、発電に利用できます。中国では2020年に主要都市で非生分解性プラスチック袋の使用が禁止され、それ以外の地区に2022年までに拡大するため、生分解性プラスチックの製造設備が急激に増強されています。
欧州バイオプラスチック協会が発表した2026年のバイオプラスチックの製造量予想は、2021年の3倍以上であり、アジアでの伸びが大きく、中国の市場動向に依ると考えられます。材料別の予想ではPBSやPBATといった軟質生分解性プラスチックの伸びが大きく、PBATはバイオプラスチックの最大シェア(30%)となり、5倍近い製造量の伸びが予想されています。一方で、PLAの製造量も増える予想ではあるものの、2021年比約1.7倍に留まります。
生分解性プラスチックに対する社会的要請は国の廃棄物処理の状況により異なります。廃棄物処理のインフラが十分に整っていない発展途上国の多くでは、ごみに含まれるプラスチックの海洋等への流出を止めることができません。その結果として、これらの国々をはじめとして海洋プラスチックごみ問題の解決に貢献できる生分解性プラスチックの重要性が今後、一層高まり、市場も拡張していくと思われます。
大阪大学 宇山教授と考える
「プラスチックのこれまでとこれから」全6編+番外編
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