デンプンとは

炭水化物は脂質やタンパク質と並ぶ三大栄養素で、エネルギーの素となります。
炭水化物の中で体内に吸収されてエネルギー源になる糖質の代表格がデンプンです。

デンプンはアミロースとアミロペクチンに分けられ、アミロースはα-1,4結合でグルコースが連なったポリマーで分岐構造が少ないです。
一方、アミロペクチンは一つのグルコースユニットにα-1,4結合のみならず、α-1,6結合を多く含む分岐構造を持ちます。アミロースは熱水に溶解し、比較的分子量が小さいですが、アミロペクチンは熱水にも不溶で分子量が高いです。植物の種類によりアミロースとアミロペクチンの含有量が異なり、コーンスターチのアミロース含量は約25%です。

デンプンは自然界に豊富に存在し、精製度の高いデンプンを大量かつ安価に入手でき、主用途は食用分野における増粘安定剤やゲル化剤等です。

デンプンのプラスチックへの利用

デンプンや加工デンプン(化学変性デンプン)は食品素材として幅広く用いられてきました。
安全性が担保されているうえ、価格は数十円~百数十円/kgと汎用プラスチックと同程度以下と安いため、多くの非食用途もあり、糊化デンプンや加工デンプンが繊維業界や製紙業界で利用されています。
しかし、デンプンは熱可塑性を示さないため、単独ではプラスチックとして用いられません。

デンプンにグリセリンを混合すると熱可塑性を示すために溶融成形が可能となり、プラスチックとして利用できるようになります。
2022年のデンプン系プラスチックの生産量は39万トンで、バイオプラスチック全体の18%と、比較的大きな比率を占めています。

デンプン系プラスチックの代表例として、ノバモント社(イタリア)製「マタービー」が挙げられます。
ポリ乳酸(PLA)やポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)等の生分解性樹脂と熱可塑デンプン(Thermoplastic Starch、TPS)をブレンドしたマタービーは、生分解性を活かした農業用マルチフィルムのみならず、レジ袋、コンポストバッグ、紙ラミネート、食器・容器類等に加工できます。
ヨーロッパでは様々な用途で使用されていますが、高価格に加え、限定的な物性から日本国内では幅広く流通するに至っていません。
マタービーは用途に応じたコンパウンドとして市販されており、組成は開示されていません。また、海洋生分解性を示すグレードもあります。

マタービーのようなコンパウンドと異なり、数社からTPSが販売されています(BiologiQ社(アメリカ):NuPlastiQ、三協化学工業:ゴールデンスターチなど)。
BiologiQはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンといった汎用樹脂のみならず、PLA、PBAT等の生分解性樹脂とのコンパウンドもラインアップしています。

また、インドネシアENVIPLAST社がキャッサバデンプンを主原料とするコンパウンドを開発し、インフレーション成形によりレジ袋等を生産しています。

ENVIPLASTのペレット、レジ袋、および成形現場の写真
画像提供:宇山教授

デンプン配合生分解性プラスチック

筆者らは2020年9月に、海洋生分解性バイオマスプラスチック(Marine Biodegradable Biomas Plastics, MBBP)開発プラットフォームを立ち上げました。 このプラットフォームでは、TPSに生分解性プラスチックをブレンドして自在な成形を可能とするMBBPの開発を目指しています。 松谷化学の協力でタイSMS社のTPS(TAPIOPLAST)を用いて生分解性樹脂のコンパウンドを開発しています。

TAPIOPLAST、TAPIOPLAST配合コンパウンド、および試作品の写真
画像提供:宇山教授


現在、40数社の企業が参画し、MBBPに対する押出成形、射出成形、ブロー成形の技術開発を行い、カトラリーやボトル、歯ブラシ等の試作品を作っています。
デンプンは海洋微生物にとっては格好の栄養源であり、デンプン配合プラスチック上に微生物が容易に繁殖することでバイオフィルムを形成し、PLAのような難海洋生分解性プラスチックであってもバイオフィルム中の微生物が産生する酵素により分解が進行することが推測されます。

多糖類をトリガーとするスイッチ機能を有する海洋生分解性プラスチックの設計指針
画像提供:宇山教授

海洋生分解性プラスチックの開発に向けて

筆者らの海洋生分解性プラスチックの材料設計の重要な特徴として、海洋生分解を誘発するトリガーとしてデンプンを用いる点が挙げられます。
通常使用では分解せず、海洋中に浸漬されることで分解が開始するスイッチ機能をプラスチックに搭載できます。
この生分解メカニズムは東京海洋大学石田真巳教授との共同研究で検証しています。品川キャンパス繋船場にてMBBPフィルムを浸漬したところ、半年後にはサンプル重量が顕著に減少し、サンプルに多数の大きな空孔が見られ、生分解の進行が示唆されました。また、サンプル表面に付着した微生物を調べ、バイオフィルム中の菌種を同定したところ、アミラーゼやエステラーゼ、リパーゼを生産する海洋細菌が見られました。

このプラットフォームで開発・実用化を目指すMBBPは、①生分解性、②汎用プラスチック並みの物性、③価格面での競争力、④広範なプラスチック成形を可能とする熱可塑性を有し、次世代プラスチックとして有望です。
MBBPの社会普及により、バイオマスの積極的な利用による資源循環・サーキュラーエコノミーへの貢献、プラスチック製品への海洋生分解機能の搭載による海洋プラスチックごみ問題の解決が期待されます。

MBBP開発プラットホームURL http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/mbbp/

大阪大学 宇山教授と考える
「プラスチックのこれまでとこれから」全6編+番外編

  1. 1.どうしてプラスチックが使われているの?
  2. 2.プラスチックの問題と課題
  3. 3.課題解決技術(1)生分解性プラスチック
  4. 4.課題解決技術(2)バイオマスプラスチック
  5. 5.課題解決技術(3)ケミカルリサイクル
  6. 6.プラスチック資源が循環する社会に向けて【完】
  7. <番外編>

  8. ■ ゼロカーボン社会とごみ処理
  9. ■ ベトナムにおける廃プラスチック活用の現状
  10. ■ プラスチックごみに関する小学生向けの環境教育
  11. ■ 自然豊かな島に漂着する海ごみの視察