公開日:2023/10/03

最終更新日:2023/10/19

知らないと損する!?
EUの炭素国境調整措置(CBAM)について

2026年より本格適用される「CBAM」は、EU域外から対象品目を輸入する際に、「製品のGHG排出量の申告」と「炭素価格」の支払いが義務付けられる新たな仕組みです。
本コラムでは、ついに始まるGHG排出量次第でお金が掛かってしまう仕組み、「EUの炭素国境調整措置(CBAM)」について解説致します。

EUに入れるために炭素排出量分が課税される!?

炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism、略称CBAM)とは、EU域外からEUに輸入する製品に対して、域内で製造した場合に係る炭素排出量価格と同等の支払いを義務づける仕組みです。
対象となる品目には、2023年10月から事業者に対する炭素排出量の報告が義務化され、そして、26年からは排出量に応じ実際の課税が始まります。
課税対象となるのはGHG排出量が多い「鉄鋼」「セメント」「肥料」「アルミニウム」「電力」「水素」の6項目で、ネジやボルトといった川下製品にも適用されます。
対象範囲は移行期間終了(2023年10月1日〜2025年12月31日)までに判断され、有機化学品やポリマーなど他の製品カテゴリーにも拡大される可能性があるとされています。

対象品目


さて、冒頭で「炭素排出量価格と同等の支払い義務」と記載しましたが、そもそも欧州で行われている「炭素排出量価格」とはどのようなものなのでしょうか?

CBAMとEU排出量取引制度の関係性

CBAMの概要については前述の通りですが、この制度導入の本質を理解するにあたって、EU排出量取引制度(European Union Emissions Trading System、略称EU ETS)は重要な関連制度と言えます。
欧州では、既に国内での企業活動には「EU排出量取引制度(European Union Emissions Trading System、略称EU ETS)」に基づいて、炭素の排出量に価格付けを行なう「カーボンプライシング」の仕組みがあります。
この仕組みは、企業や施設に対して毎年排出量の上限を課し、その上限を段階的に引き下げることによって排出量削減を目指す制度です。
仮に、与えられた排出枠を実際の排出量が超えていれば、政府から排出枠を購入する対応が求められます。
ただし、この排出量取引の制度では、エネルギーを多量に消費し且つ貿易依存度の高い部門(EITE部門)に対しては、国際的な競争力を維持するために、これまでは排出枠の無償割り当て(現在は100%)が与えられていました。
ここで大きな変化が起きます。
2022年12月の制度改正により、2030年の削減目標が43%削減から62%削減(2005年比)に引き上げされ、そしてEITE部門への国際競争力維持のための排出枠の無償割当も段階的に廃止すると発表されたのです。

無償割当の段階的廃止



脱炭素に向けた思い切った政策の強化とも受け止められる制度改正ではありますが、これにより、一層懸念される動きが、「カーボンリーケージ」です。
「カーボンリーケージ」とは、排出規制が厳しい国(ここではEU)の企業が、規制の緩やかな国へ生産拠点や投資先を移転し(逃げてしまい)、結果的に世界全体の排出量が増加する事態のことを指します。
折角、欧州内で削減目標を高め、気候変動対策をより有効的なものに変えようとしても、域外に脱出してGHGを排出されては意味がありません。
ここで、カーボンリーケージ対策として導入されたのがCBAMなのです。

EU-ETSとCBAMのイメージ図


CBAMによって形作られる新たな市場ルールへの対策

カーボリーケージ対策として考えられたCBAMは、域外に脱出を図る可能性のあるEU加盟国の事業者だけでなく、EU非加盟国の製造業者や貿易業者も同様に適用されます。
欧州域外故に排出量取引制度の外にいた日系企業等の欧州外企業は、ついに欧州市場においては排出量取引と同等の金銭的リスクを負うことになったのです。

我々は一刻も早くCBAMへの対策を検討しなければなりません。
例えば、、
・対象品目となるEUへの輸出品を特定する(CNコードと原産国を決定し、CBAMの適用がされるか判断する)
・GHG排出量の報告への対応準備(製造場所での排出量や炭素価格についての必要なデータを収集)
等がその対策として挙げられるでしょう。

これまでplaplatで推奨してきた「組織のGHG排出量の算定や製品CFPの算定」が、企業が市場で事業活動を行なう上での必須事項となり、価格競争力を得るために「脱炭素社会に向けて持続可能な経営を目指すこと」が有効な手段となる世界に変わったということです。

CBAMは、前述の通り、2026年までは移行期間です。
我々は上述の準備を進めつつ、設置規則案の最終化過程や移行期間開始後の対象品目の推移などの動向に引き続き留意する必要があります。

世界全体でカーボンプライシングが加速

さて、CBAM導入により、今までは自国または自地域における炭素排出に対し各々のルールが設定されていた炭素税制が、国または地域をまたぐ対象範囲を拡大した課税制度に変わりました。
将来、EUの他にも同様の制度が導入されていけば、多くの地域で自国で炭素税制が導入されていなくとも、コスト負担の増加などの影響を受けることになります。

我が国、日本においても2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、「成長志向型カーボンプライシング構想」が打ち出されるなど同様の動きは着実に進んでいます。
CBAMは、脱炭素社会の実現に向かう世界へ、カーボンプライシング政策の広がりを後押しする効果があったといえるかも知れません。

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福原 楽

長瀬産業株式会社
ポリマーグローバルアカウント事業部


2023年度入社、同年10月よりグローバルアカウント2課に所属となりました。