CSRD」発行で拡がる、
企業のサステナビリティ開示内容と責任

2023年に新たに発行された、企業のサステナビリティに関連する開示義務を明確にする「CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)」とは、どのような法令なのでしょうか?
日本企業が先行して対応している「TCFD」との違いを踏まえながら、概要とポイントを解説いたします。

「シングル × 気候変動」と「ダブル × ESG全般」の違い

サステナビリティ情報の開示に求められる水準は日々高まっています。
これを受けてEUは 2023年1月5日、広く一般の人々が企業のサステナビリティの取り組みを比較できる法令「CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)」を発行しました。

これまで日本の企業はTCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)で開示が求められている内容を基準に、社会全体に対する環境変化が自社に与える影響を提示してきました。
TCFDは「シングル・マテリアリティ」と呼ばれ、企業が、環境や社会から「受ける」影響を示す、投資家が必要とするマテリアリティとなっています。

しかし、新たな報告指令であるCSRDは「ダブル・マテリアリティ」と呼ばれており、「受ける」影響に加え、企業が環境や社会に「与える」影響を示す、市民社会も含めた広い範囲のステークホルダーが求めるマテリアリティとなっています。
そしてもう一つ重要な点がTCFDでは気候変動に関してのマテリアリティをターゲットにしているのに対し、CSRDではESG全般に関してのマテリアリティを求めている点が大きな差となっています。

※昨今良く使わている「マテリアリティ」とは、SDGsやESGを考えた際に、企業が優先して取り組む重要課題のことを指しています。

CSRDの概要

さて、CSRDについて詳しく見ていきましょう。まず、下記2つのポイントを押さえていきます。

・CSRDは、現在のNFRD (Non-Financial Reporting Directive:非財務情報報告指令) の改正バージョン
・法的な強制力を持ち、第三者による保証義務も付加され、対象企業の範囲も広がった

従来、EUではダブル・マテリアリティである「NFRD」により、一定の要件を満たす企業に対し、環境保護や人権尊重といったサステナビリティ情報の開示義務が定めてきました。
しかし、NFRDは強制力のない「ガイドライン」であり、期待されたほどの充実した情報開示が行われませんでした。
そこで、法令として強制力を持った「CSRD」が規定されることとなったのです。強制力を得たことで、「独立した第三者による保証義務」も追加されている点も注意せねばなりません。

また、NFRDの対象はEUの一部の大企業のみでしたが、CSRDでは下記表のように対象が拡大されました。結果、対象企業はNFRDの5倍近く、約50,000社にまでなると見込まれています。

CSRD対象


日本企業が留意すべきは、NFRD適用対象でないが大規模企業に該当する子会社がEU域内にある場合、また、EU市場での売り上げが大きい場合です。
前者であれば2026年に、後者であれば2029年にCSRDの適用が開始され、開示基準であるESRS (Europian Sustainability Reporting Standards) に従って「環境・社会・ガバナンスに関する影響」を報告する必要があります。

CSRD対象の日本企業がとるべき対応

CSRDの適用対象となった日本企業がまず行なうことは、「開示すべきテーマの選定」です。
上述の通り、CSRD対象企業はESRSに従った情報開示が求められます。図に書かれたトピックのうち、一部は開示必須と定められているものの、その他は企業がマテリアル(重要)でないと判断すれば開示を省略することができます。
つまり、自社にとってのマテリアリティを再評価し、どのテーマで開示を行なうかを決めることが第一の対応と言えます。

また、情報収集の範囲やプロセスの特定、管理や集計方法の設計、第三者保証をクリアできる情報の正確性とトレーサビリティなど、情報管理体制の構築も必要でしょう。適用開始時期に合わせて、現実的なタイムラインに沿ったロードマップを作成することが重要です。

三歩先を行く欧州のサステナビリティ思考

現在日本では、TCFDに変わり「ISSB」への移行が必要とされています。
ISSBは、国際会計基準(IFRS)財団が2021年11月に設立した「International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会」であり、TCFD同様に投資家に向けた企業価値の開示に焦点を当てた報告制度となっています。
ISSBは、2024年よりTCFDからの要請を受け、企業の気候関連情報開示の進捗を監視する責任を引き継ぐことが発表されており、各企業はこれに追われています。

しかし、TCFD・ISSBもシングル・マテリアリティであり、企業価値に焦点が当てられているのみで、社会と市民が興味を持つ企業が環境や社会に与える影響については報告範囲外となっています。
欧州では、企業価値のみならず、社会と市民への影響も踏まえた企業活動の開示内容を詳細に定め、法制化して、更に対象となる企業の範囲を拡げています。
欧州の環境への意識の高さ、社会を挙げてのサステナビリティ行動にを見て、三歩先の世界観としてますます注目して行かねばならないと考えています。

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川淵 宥依

長瀬産業株式会社
ポリマーグローバルアカウント事業部


2023年度入社、同年10月よりグローバルアカウント1課に所属となりました。