公開日:2024/04/18

最終更新日:2024/04/15

欧州国境炭素調整措置(CBAM)のポイントと影響の解説

EUは2023年5月、EU域外からの特定の輸入品目に対して、その製品のGHG排出量に応じた「炭素コスト」を課す仕組みである、欧州国境炭素調整措置(Carbon Border Adjustment Mechanism。以下、CBAM)の導入を決定しました。本稿では、CBAM対応を進める際の実務上のポイントや、導入による日本企業への影響について解説します。

対象品目と対象拡大スケジュール

CBAMの対象品には、カーボンリーケージのリスクが高いと考えられているセメント、電力、肥料、水素、鉄・鉄鋼およびアルミニウム製品が含まれます。
CBAMの対象となるか否かは、欧州へ輸入される際に欧州税関へ申告される「品目番号(CN Code)」で判定されます。アルミや鉄鋼から成る、すべての製品がCBAM対象品になる訳ではありません。
例えば、鉄鋼製品の一つに「コイルばね」(品目番号7320.30)がありますが、これはCBAM対象品ではありません。
このように、品目番号毎にCBAM対象品が定められているため、実際の運用では、取扱品の品目番号に基づき判定する必要があります。
また、欧州輸入品の品目番号は、欧州への輸入時に欧州税関に申告されるため、企業における対象品の洗い出しおよびデータ管理においては、欧州税関へ提出された輸入申告情報の把握も必要です。

加えて、CBAM対象品は、2026年までの間に行われる再評価プロセスを経て、カーボンリーケージのリスクがあると見込まれるその他の品目にも拡大される可能性があります。
将来的な拡大対象品や、その品目拡大にかかる2030年までの段階的なスケジュールは、2025年12月末の移行期間終了までに、欧州委員会から欧州議会に報告される見込みです。
有機化学薬品およびポリマーも評価対象と明示されており、本格実施後にCBAM対象に含められる可能性が高いと考えられます。

排出量算定の考え方

CBAMでは、GHGプロトコルなどとは異なるスコープの定義づけがなされていますが、2023年10月から開始された移行期間において、四半期報告の対象となる温室効果ガス(GHG)排出量は、いわゆる直接的な排出量(スコープ1)のみならず、電力消費による間接排出量(スコープ2)や、前駆物質といわれる原材料の排出量(スコープ3)も、報告の対象となります。
排出量の測定方法に関しては、以下の2パターンが規定されています。

1. 計算に基づく方法
活動データ(燃料や投入材料の量)及び実験室分析、または標準値からの計算係数に基づいて、排出量を決定
2.測定に基づく方法
排ガス中の該当する温室効果ガスの濃度、及び排ガス流量を継続的に測定することにより、排出源から排出量を測定

例えば、簡素な方法の一つとして、「1. 計算に基づく方法」では、投入燃料量(tまたはm3)に排出係数を掛け合わせることで、燃料と酸素の発熱反応中に発生するGHG排出量の算定が可能です。
この場合、排出係数などの標準値はCBAM実施規則で公表されており、企業側で特定する必要があるデータは投入燃料量のみになります。
また、電気消費量に基づく間接排出量も同様に、電気消費量(MWhまたはTJ)に排出係数を掛け合わせて算定します。この場合の排出係数も、CBAM実施規則に掲載されているため、企業側は、電気消費量が特定できれば、間接排出量の算定が可能となります。

なお、2024年7月末の3回目の報告までは、2次データとしてのデフォルト値の利用ほか、上記2つのCBAM実施規則が規定する方法(CBAM方式)以外の方法による測定も認められます。
一方、2024年後半からは、原則的にCBAM実施規則に規定された方法による報告が求められます。

画像提供:PwCアドバイザリー合同会社

EUETSの無償・有償の割り当てとの連動、認証制度など

CBAMは、2023年10月から2024年12月末までの移行期間を経て、2026年に本格的に実施される予定です。
本格実施後は、GHG排出量の認定検証者による検証を受けることが義務化されるほか、CBAM対象品の輸入に関して輸入品のGHG排出量に基づき算定された炭素コストの課税も開始されます。

炭素コストの課税は、欧州域内の欧州排出量取引制度(EU ETS)の無償枠の削減と連動する形で実施される見込みです。
具体的には、現在CBAM対象品である鉄鋼やアルミ製品の欧州域内生産は、EU ETSによる無償枠が適用されており、炭素コストの負担がありません。
しかし、EU ETSの無償枠は、2026年から段階的に削減され、2034年にはすべて有償化されます。
つまり、将来的には国内生産にも炭素コスト負担が発生することになります。
CBAMは、EU ETSの無償枠撤廃に伴い発生するカーボンリーケージのリスクに対処するため、輸入品と域内品に対して同等の炭素価格を確保することを目的に導入される制度です。
EU ETSとの連動方法や第三者認証制度の具体的な内容は、今後、発表される関連実施規則を引き続き注視して確認する必要があります。

画像提供:PwCアドバイザリー合同会社

CBAM導入による日本企業への影響

最後に、ビジネスへの影響についてです。
CBAM導入の影響は、制度が適用される輸出企業のみならず、幅広い業界の環境変化を加速させる可能性があります。
鉄やセメントなどの素材の含有炭素排出量の算定が一般的となることで、エンドユーザーの業界において、CO2排出量が競争軸やサプライヤーとの取引条件となるシナリオがあり得ます。
自動車業界における製品LCAや、建設・不動産業界におけるエンボディードカーボンなどがその一例です。
また、競争軸の変化に伴い、各業界の脱炭素技術のさらなる開発・導入も進展するでしょう。水素製鉄、CO2リサイクルセメント製造などの技術導入の遅れが競争力を毀損する可能性に留意すべきです。特にグローバルで事業展開・競争する日本企業は、CBAM導入による業界構造の変化を分析し、自社事業への影響を睨んだ戦略の検討が必要です。

さらにご興味がある方は、下記のサイトを是非ご覧ください。
・欧州国境炭素調整措置(CBAM)の導入と貿易への影響
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202401/48-08.html

・サステナビリティ経営支援サービス
https://www.pwc.com/jp/ja/services/sustainability-coe.html

お問い合わせ

profile

濱田 未央

PricewaterhouseCoopers WMS Pte. Ltd.
財務省税関や経済産業省にて貿易政策立案や通関実務、制度普及に従事したのち、外資系税理士法人を経て、2022年から現職。PwC Japanグループ内の関税貿易チームにて、関税貿易分野でのクライアント支援を担当。関税最適化支援、貿易コンプライアンスレビューのほか、各国貿易に関する規制や管理政策に関する動向調査も担う。貿易やクロスボーダー取引の観点からカーボンプライシングとしての欧州国境炭素調整措置(CBAM)導入開始に向けたセミナーへの登壇や、アセスメントや実施支援も提供中。

村山 学

PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター

神吉 省吾

PwCアドバイザリー合同会社
<専門分野>サステナビリティ、ファイナンス