公開日:2024/03/29

最終更新日:2024/03/25

排出量取引制度の比較 【前編】
キャップ&トレードとベースライン&クレジット

「排出量取引制度」は、企業ごとに設定されたCO2排出枠を、有償または無償で事業者間で取引する制度です。CO2排出量を可視化し、削減を促進するためのカーボン・プライシングの方法として、「炭素税」と並び世界中で議論や導入が進められています。
前編では、2つの排出量取引の方式を比較しながらご紹介します。

方式①キャップ&トレード

「キャップ&トレード」は、政府や自治体が排出量の上限(キャップ)を設定し、事業者や産業部門に対して排出権を割り当てる方式です。
事業者は割り当てられた排出権を保有し、必要に応じて取引(トレード)を行います。

この方式は、排出量の削減を達成するために削減目標に沿った規制に基づいているため、その特徴は制度的な強制力を持つことです。
(図1.削減量の考え方 キャップ&トレード方式 参照)

図1.削減量の考え方(キャップ&トレード方式)
画像提供:一般社団法人中部産業連盟

方式②ベースライン&クレジット

「ベースライン&クレジット」は、あくまで事業者の自主的な環境貢献を評価するためのクレジット制度であり、あらかじめ設定されたベースライン(基準ライン)と比較して事業者の排出量削減を評価し、その差分に応じてクレジットが発行される方式となります。

事業者がベースラインを下回る排出量を達成した場合、その差分に対応するクレジットを取得することができ、自社の環境目標の達成や他の事業者への売却などに活用することができます。

このベースライン&クレジット方式は、事業者に柔軟性を持たせつつ、環境への貢献を促す仕組みとして利用されており、日本においては環境省、経済産業省、農林水産省が運営している「Jクレジット制度」がこれに該当します。
(図2.削減量の考え方 ベースライン&クレジット方式 参照)

図2.削減量の考え方 ベースライン&クレジット方式
画像提供:一般社団法人中部産業連盟

2つの方式を比較すると

2つの方式を比較すると、以下3つの異なる点があります。
(図3.主な特徴の比較 参照)

図3.主な特徴の比較
画像提供:一般社団法人中部産業連盟


①算定の範囲
キャップ&トレード方式では、企業や事業所といった組織が対象となります。
制度により異なりますが、一般的には建物の主たる所有者やエネルギーの連動性などを加味して対象を選定し、一定の排出を行う組織に対し、キャップ(排出枠)をかけるイメージです。
対してベースライン&クレジット方式では、プロジェクトにより範囲を決定するため、具体的には、より排出量の少ない設備への更新や導入などが上げられます。

②排出(目標)量の確定時期
キャップ&トレード方式では、対象となる事業体に対し基準を設けるため、制度設計に不備がない限りは達成が見込める目標となります。
つまり、実行する前段階で削減量をほぼ確定することが可能といえます。
一方で、ベースライン&クレジット方式では、プロジェクトの実行前に計画(方法論に基づいたプロジェクト計画書)を立てるものの、バリデーション段階においては、そのプロジェクトの有効性確認(妥当性確認)に留まり、実行後の結果(モニタリング・算定)については、ベリフィケーション(検証)が行われ、最終的な削減量が決定します。

上記に付随して、前出の図1図2に示すように、生産量や活動量が変化した場合におけるCO2の削減量の算出が異なる部分も特徴的です。

③削減活動における強制力の有無
前述のとおり、規制的側面を持つキャップ&トレードと、自主的活動をベースとするベースライン&クレジットでは、根本的に異なる制度であることが分かります。
故に、キャップ&トレードは導入における規制の基準やその対象となる企業の理解を得ることが容易ではなく、制度化への敷居が高くなることが一般的であるといえます。

後編に続く

キャップ&トレードは導入における規制の基準やその対象となる企業の理解を得ることが容易ではなく、制度化への敷居が高くなることが一般的であるといえます。
しかし、世界には欧州の「EU-ETS」のような、キャップ&トレード方式での実効性のある排出量取引制度が存在しています。
後編では、日本と欧州の比較や、日本の取り組み、課題などをご紹介します。

記事制作協力:「一般社団法人中部産業連盟 月刊誌プログレス」

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