公開日:2024/04/01

最終更新日:2024/03/25

排出量取引制度の比較【後編】
日本と欧州の状況

前編では、「キャップ&トレード」と「ベースライン&クレジット」という2つの排出量取引の方式を比較しながらご紹介しました。
後編では、日本と欧州で実際に導入されている排出量取引制度を価格比較しながら紹介するとともに、日本で進められている取り組みをご紹介します。

日本と欧州のカーボンクレジット価格

前編で述べたとおり、キャップ&トレード方式は強制的な削減目標に沿って実行されるため、制度内で発生する排出量(排出枠)の信頼性及び価値を高める側面を持っています。

これに基づき、日本におけるベースライン&クレジット方式の「Jクレジット」と、キャップ&トレード方式の代表格である欧州「EU-ETS」のカーボンクレジットの価格比について考察したいと思います。

現在の「Jクレジット」の平均取引価格(再生エネルギー由来)が約3,200円(※2023年5月時点 出典:2023年9月J-クレジット制度事務局)であるのに対し、欧州カーボンクレジット市場による価格は凡そ85€(為替レート1€155円で換算すると日本円にして約13,000円)となります。
(図5.欧州のカーボンクレジット市場参照)

図5.欧州のカーボンクレジット市場
CarbonCredits.com.「Your Source For Carbon Credit News & Opportunitie」,参照_2024.3.11.https://carboncredits.com/
画像提供:一般社団法人中部産業連盟


「 EU-ETS」における排出権価格の推移を見ると、2020年は20~30€前後で推移していたものの、 2021年7月にFit for 55(欧州連合の温室効果ガス排出量を 2030 年までに 55% 削減すること)の発表等を受け、取引価格は高騰し続け、2023年には一時、1t/CO2あたり100€を超える価格を示しています。
現在においても取引価格は高い水準を保っており、欧州においてはCO2削減に向けた取組みが勢力的に実行されていることがわかります。

日本での制度化に向けた動き

日本政府は、排出量取引制度における知見・経験の蓄積と事業者の自主的な削減努力の支援を目的に、平成17年に環境省主導による自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)を導入し、試験的運用を試みてきました。
その後、国内排出削減・吸収プロジェクトにより実現された温室効果ガスの排出削減・吸収を促進するためのオフセット・クレジット(J-VER)や先進対策の効率的実施によるCO₂排出量大幅削減事業(ASSET事業)、工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業(SHIFT事業)等の助成金事業を策定し、事業者への浸透は図っています。

また、2023年に「GXリーグ」を発足し、国内排出量取引制度の確立に向けて動き出しました。
このGXリーグの基本方針では、排出量取引/GX-ETSの段階的発展方針が示されており、2026年度(第2フェーズ)の本格稼働に向けて、準備を進めている段階です。
しかしながら、本制度は現段階において、参画企業の自主的な目標設定と達成状況の説明に重点を置いた、プレッジ&レビュー方式の制度であり、先に述べた規制的な側面を持つキャップ&トレード方式とは異なる制度といえます。

東京都が進める排出量取引制度

東京都では、2050年までにCO2の排出量を実質ゼロの達成を目指し、2010年に「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を開始しました。

この制度では、前年度の燃料・熱・電気の使用量が原油換算で1,500kl/年以上の事業所を対象に段階的な削減義務を設け、達成できない場合は罰金及び違反事実の公表といった罰則が設けられています。
(図4 東京都制度における対象事業所の総CO2排出量の推移)

図4.東京都制度における対象事業所の総CO2排出量の推移
画像提供:一般社団法人中部産業連盟


上の図を見ると、第二計画期間(平成27年度から令和元年度)では、CO2を17%(または15%)削減することが義務付けられていましたが、全対象事業所の総CO2排出量は各年度において、削減義務率を大きく上回る26~27%の数値を示しています。
さらに、第三計画期間(令和2年度から令和6元年度)に移行してからも、削減義務率27%(または25%)に対し、33%という数値を示し、目標を大幅に達成しています。
加えて、対象事業所の約80%以上がクレジット等の活用ではなく、自らの取り組みにて削減義務を達成していることも、CO2の削減に向けた強いコミットメントが見て取れます。

以上から、本制度は東京都の確固たるリーダーシップにより、着実にCO2の削減を推進している、精緻なキャップ&トレード方式の排出量取引制度であることが分かります。

まとめ

欧州での「EU-ETS」といった、国際的なカーボンニュートラルの取組みに対応した制度設計は、国家間での排出量取引における信頼性を高め、現状ではグローバル市場での優位性が保たれています。

今後、日本のでも排出量取引制度の導入が進み、それがグローバル市場で評価されるには、どのように制度設計を進めていくが焦点になるかと思われます。

記事制作協力:「一般社団法人中部産業連盟 月刊誌プログレス」

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