衣料の歴史とプラスチックについて

先ずは繊維と衣料の歴史を少し振り返っていきましょう。
縄文時代から第一次産業革命に至る期間に使用された繊維の主役は「麻」でした。現在も資材分野で使用されている「ジュート」や「リネン」、また近年再注目されている「ヘンプ」は麻科の植物で、綿(コットン、カポック)、動物繊維の羊毛(ウール)、昆虫由来繊維である絹(シルク)などとともに、衣類向けに現在も使用されます。
日本においては、植物原料由来の人造絹繊維(レーヨン)の製造が20世紀初頭から開始され、産業の発展に貢献した歴史があります。
そして1950年度になり、衣類に使用される代表的なプラスチックである「PET」の商業生産が本格化し、現在でも衣類産業を牽引しています。

衣料用プラスチックの環境課題

PET については、主原料である「エチレングリコール(PEG)」と「テレフタル酸」は何れも石油由来であるため、枯渇性資源の消費と地球温暖化の問題があります。また、生分解性がないために、衣類の洗濯時に流出する「繊維くず」は海洋プラスチックごみとなる問題があります。
このような懸念があることから、衣類業界ではさまざまな環境負荷低減の取組が開始されています。
代表的な事例として、
植物由来PEGを使用したバイオPET の活用(但し植物由来度は約30%)
■PETボトルやフリース衣料をマテリアルリサイクルして再利用する取組
生分解性ポリエステル(PLA、PBAT含む)繊維の開発
が活発化しています。
PA に関しては、再生可能な植物資源である「ひまし油」や「トウゴマ」由来の バイオPA の商業生産が開始されています。
また、漁業資材として使用された「漁網」から作られる「リサイクルPA」は、アウトドア関連のアパレル企業が積極的な導入を2010年頃から開始した結果、PCR材(ポストコンシューマリサイクル)需要が高まり、供給がひっ迫する状況となるなど、関心度が増しています。

衣料産業が抱える環境課題

衣類用繊維のほとんどに使用される染料{分散染料(主にPET繊維用)や 酸性染料(主にPA繊維用)}には、染色工程で発生する廃液による水質汚染の問題があります。
日本国内の繊維産業は、水質汚染対策費や人件費など、各製造工程でのコスト対応が難しくなったことで1980年代に減衰し、90年代以降は中国が世界的な産地として台頭し、過半数の製造占有状態にありました。
しかしその後、地域リスク回避や雇用創出などの必要性から、近年はベトナム、タイ、インドネシア、インドが生産地として注目され、今後はアフリカ地域での産業振興が予測される状況にあります。
生産地が何処であっても、前述の水質汚染への配慮はもちろんのこと、低炭素化に関しての取組は重要課題となっています。

また、代表的な植物由来繊維であるコットン(綿)においても、栽培過程において過度な搾取や労働への社会的な関心が高まったことによる影響や、製造過程で消費される水の量(ウォーターマイレージ)についての配慮が必要となるなど、衣料業界にはプラスチック問題とともに取り組むべき課題があります。

衣料のサステナに、プラスチックができること

スポーツ衣料やSPA(製造小売り)衣料の売り場におけるPET比率は、80%超であるとの印象があります。衣料の機能性(ストレッチ性、吸水速乾性、撥水性、防風透湿性、軽量化)を支えているプラスチックは、登場から半世紀を経て必要不可欠な存在となっています。

同時に、地球規模の社会課題である地球温暖化対策と海洋プラスチックごみの排出抑制に向けて、
■植物由来素材の活用
■生分解性(海洋生分解、コンポスト剤による生分解含む)の適切な使用
■再生材の適正な管理による運用
など、さまざまな取組みが行なわれています。

2025年頃に海洋プラスチックごみの排出規制に関する国際条約が批准される見通しであることなどから、世界的な関心度も高まっており、持続的な取組みが求められています。
植物由来や生分解性プラスチックの商業生産規模は増加傾向にあるものの、従来型の石油由来PETを置き換えるだけの規模とは程遠いのが足元の状況です。
しかし、PET樹脂の生産規模が現在の水準(年間約1億トン)に到達するまでに要した期間が約40年間であることを鑑みると、昨今の国際的な規制強化・関心の高まりや、製造事業への新規参入などが活発化する中、普及促進に向けてはコストや品質面での受け入れ基準の見直しを伴うものの、社会課題への対策を最優先すべき環境が整備されていくことによって、衣料分野におけるプラスチックのサステナビリティは、着実に実現に向かっていくと思われます。


プラと衣食住① プラスチックが作る食文化
プラと衣食住② 私たちが「着る」プラスチックの今後
プラと衣食住③ 快適な住環境を支えるプラスチック