バイオマスプラスチックと生分解性プラスチック
「環境配慮型プラスチック」として「バイオプラスチック」が例に挙げられる場合が多いですが、「バイオプラスチック」は大きく「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」に区別できます。
「バイオマスプラスチック」は、プラスチックを製造するための原料が、化石資源ではない「バイオマス」(有機資源、代表的には植物)です。バイオマスを生産する際に二酸化炭素を吸収するので、素材としての「カーボンニュートラル」が期待できます。ただし、バイオマス由来のプラスチックの原料としては、「グルコース(糖)」「ひまし油」など、まだまだ限定的です。バイオマスは、プラスチック使用前のバイオ対応であるため「入口」のバイオ対応と言うこともできます。
一方の「生分解性プラスチック」は、プラスチック使用後に、微生物の力で水と二酸化炭素に分解されます。分解時に二酸化炭素を生成するため、「脱炭素対応」にはなりません。また、使用後=「出口」のバイオ対応と言えます。
入口を縦軸に、出口を横軸にして各種プラスチックを配すると、下図のように4象限に分類できます。脱炭素を目指すのか、生分解を目指すのかで、選択できるプラスチックが変わってきます。
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リサイクルプラスチック(PCR材)による環境負荷低減効果
「環境配慮型」のもう一つの切り口である「リサイクルプラスチック(PCR材)」については、過去6回にわたって紹介してきました。その中で環境ラベルであり、評価ツールでもある「EPEAT」についてもご紹介しましたが、この規格の運営・管理を行なっているGEC(Global Electronics Council)は、2026年に向けて規格の大幅な改訂を進めています。
今回の改訂にあたっては、関連する業界団体や消費者団体、政府機関に対して詳細なヒアリングと調査を行ない、現状をしっかりと認識し、規格で定める数値に対する根拠を示しています。その調査結果は「State of Sustainable Research」として公開されており、材料に関しては「Sustainable Use of Resources : 資源の持続可能な利用」に様々なデータが掲載されています。
下表は掲載されているデータの1つで、PCR材を使用することによる環境負荷軽減効果を項目別にまとめたものです。
プラスチック3種類のPCR材について、7つの環境指標を評価していますが、ほぼ全ての項目で環境負荷が軽減する結果となっています。
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バイオマスプラスチックによる環境負荷低減効果
一方、バイオマスプラスチックについては、PLA、PBS、PBATなどについて、PCR材と同様の評価を行なったとの記載があります。
結果、PLAが他のバイオマス樹脂より地球温暖化係数の省力で良い結果を示したものの、「富栄養化、生態毒性、発がん性の影響など、他の影響カテゴリについては、PLA が他の代替材料と比較して最大の影響を及ぼした」と記載されています。
さらに「バイオプラスチックの使用の増加は、土地と水の使用の増加につながり、生物多様性に悪影響を及ぼす可能性がある」とも記載されており、「バイオプラスチックが化石燃料ベースのプラスチックの潜在的な代替品であるかどうかを理解するには、さらなる研究と質の高いデータ が必要」と結んでいます。
現行の「EPEAT」では、バイオマスプラスチックを使用することによる「Optional」ポイントが付与されているものの、最新の改訂DRAFTではバイオマスプラスチックの要件そのものが削除されているのは、ここに理由があります。
バイオマスプラスチックの必要性
バイオマスプラスチックを別の側面から捉えてみます。
下表は、資源エネルギー庁が発行している「令和4年度エネルギーに関する年次報告」、いわゆる「エネルギー白書2023年度版」に掲載されている、化石資源の埋蔵量のデータです。
経済産業省 資源エネルギー庁.「令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)PDF版」,参考_2023.11.06.https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/pdf
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ご存じのように、多くのプラスチックの原料となるナフサは原油を精製して得られます。
原油の可採年数(今後採掘が可能と予想される期間)は50年強で、この数値はここ数年変わっていないのですが、これは新たな油田が発見されたり、採掘量を調整したりしている効果とも言えます。ですが、資源に限りがあることに変わりはありません。
現代社会において、軽くて電気・熱を通さないプラスチックを使わない生活は現実的ではありませんし、さらにバイオマスプラスチックには化石資源に頼らないというメリットがあり、カーボンニュートラルを期待できる素材でもあります。
現時点では前述のような不確定な部分は残るものの、プラスチックの利便性を享受し続けていくためにも、バイオマスプラスチックに掛かる期待は今後益々高くなっていくものと思っています。