大量に発生する衣類廃棄物

世界全体のアパレル市場はコロナ後に拡大しており、市場規模は、2023年が 1.74兆米ドル、2027年には 1.94兆米ドルに増加すると推定されています。国内のアパレル供給量・市場規模は、2021年で36億点(1990年:20億点)、10兆円です。
一方で、アパレル・ファッション産業は大量消費・大量廃棄のビジネスモデルが広がったこともあり、環境負荷が極めて大きいと指摘されています。
その象徴が、極端にライフサイクルの短いファストファッションの流行です。

ファストファッションの浸透は、衣類の大量生産と大量廃棄を生み、アパレル産業は石油産業に次いで、第二位の環境汚染産業であると指摘されています。
世界では毎年、9200万トンにのぼる衣類が廃棄されており、焼却により人間活動の10%に相当する多くのCO2が放出されています*1。
国内では、2022年に70万トンの衣類が使用後に手放され、その34%がリユース(15%)や産業資材としての利用(19%)されていますが、残りの47万トン(66%)は廃棄されています。
*1 環境省.「環境省_サステナブルファッション」,出典_2024.4.1.https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/index.html

アパレル産業の環境負荷

繊維・衣類の製造における環境負荷として、水の大量使用が挙げられます(930億m3、500万人分の生活水)。
ファストファッションを支える製造拠点は発展途上国に多くあり、これらの地域の一部では、染色をはじめとする、製造工程で使用する化学物質が工場排水に含まれることによる環境破壊も指摘されています。
また、ポリエステルやナイロンといった合成繊維は石油から作られ、綿に比して製造時に多くのCO2を排出します。

消費者に渡ってからは、衣類から50万トンのマイクロプラスチックが海洋に流出しています(海洋に流出するプラスチックの5~6%)。
さらに一部の発展途上国では、寄付された古着の一部が不適切に廃棄され、環境問題を引き起こしています。
このように、アパレル・ファッション産業には原材料調達から生産・流通、使用、廃棄に至る各段階での環境負荷やサプライチェーンの問題が指摘されるだけでなく、ネイチャーポジティブ(生物多様性)への配慮なども求められます。

衣類のリサイクル

ポリエチレンテレフタレート(PET)は飲料ボトル等に幅広く用いられるプラスチックですが、衣類で用いられるポリエステル繊維もまた、ほぼ全てがPET製です。
フリース等のポリエステル繊維単独で作られる衣類は、リサイクルが可能です。また、カスケードリサイクルとして回収されたPETボトルからは、ポリエステル繊維が作られ、衣類製品に使われています。

一方、綿/ポリエステル混紡繊維は衣類の半分近くを占めます。綿は肌触りが良く、吸水性や保湿性に優れ、通気性がある一方、ポリエステルはシワになりにくく、型崩れしづらく、加工もしやすく、さらに速乾性に優れます。
綿/ポリエステル混紡繊維は綿とポリエステルの両方の特徴を有するため、ポロシャツ、シャツ、ズボン等に幅広く利用されています。しかし、従来技術では綿とポリエステルを分離できず、リサイクルできません。

PETはテレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、前駆体であるBHET(テレフタル酸ビスヒドロキシエチル)を経て、重合により製造されます。
筆者らはマイクロ波照射に着目し、綿には作用せず、ポリエステルを選択的に分解してポリエステル前駆体に変換する触媒を見出すことで、綿はそのまま回収し(マテリアルリサイクル)、ポリエステルはBHETにケミカルリサイクルする技術を開発しました。

<図1・筆者らが開発した技術>
画像提供:宇山教授


この技術では、適切な触媒を用いてエチレングリコール中でポリエステル繊維を選択的に分解(解重合)することで、BHETに変換します。
この触媒の選定が重要であり、安全性に優れる安価なケミカルが高効率な触媒として作用することを見出しました。この触媒は綿(セルロース)には作用しないため、反応液中に綿はそのままで残り、回収できました。また、反応液から簡単な結晶化操作により、高純度のBHET結晶として取り出すことができました。

<図2・リサイクル前後の繊維>
画像提供:宇山教授

アパレル業界のリサイクル課題解決技術

世界的に見ると、アメリカとヨーロッパに綿/ポリエステル混紡繊維のリサイクル技術を開発中のスタートアップ企業があり、ここで紹介する技術は、それに並ぶ新たな試みに位置付けられます。
これら企業の技術の詳細は不明であり、筆者らの技術にはマイクロ波照射装置を必要とするものの、溶媒や触媒は安価かつ安全であり、短時間の処理で分別される点で優位性があると思われます。
さらに、綿はそのまま回収されて使用でき、ポリエステルは前駆体(BHET)を高純度で回収でき、重合により高品質のポリエステル繊維に戻すことができます。

この新技術は、衣類の半分近くを占める綿/ポリエステルの混紡繊維を再利用・再資源化でき、多くの衣類の循環につながるため、アパレル業界のリサイクル革命として注目されるかもしれません。

大阪大学 宇山教授と考える
「プラスチックのこれまでとこれから」全6編+番外編

  1. 1.どうしてプラスチックが使われているの?
  2. 2.プラスチックの問題と課題
  3. 3.課題解決技術(1)生分解性プラスチック
  4. 4.課題解決技術(2)バイオマスプラスチック
  5. 5.課題解決技術(3)ケミカルリサイクル
  6. 6.プラスチック資源が循環する社会に向けて【完】
  7. <番外編>

  8. ■ ゼロカーボン社会とごみ処理
  9. ■ ベトナムにおける廃プラスチック活用の現状
  10. ■ プラスチックごみに関する小学生向けの環境教育
  11. ■ 自然豊かな島に漂着する海ごみの視察
  12. ■ デンプン配合プラスチックの開発動向