プラスチックによる環境汚染

2022年4月に施行されたプラ新法(プラスチック資源循環促進法)への対策等から、プラスチック問題への関心が高まっています。私たちの生活に欠かせないプラスチックはどのようにして環境を汚染するのでしょうか? 世界各国(特に発展途上国)の海や河川には多くのプラスチックごみが散乱しています。これらのごみが環境中で崩壊して小さくなって「マイクロプラスチック」となり、その影響が危惧されています。しかし、人体への有毒性が確認されている有害化学物質と異なり、プラスチックは、現時点では人間や動物への直接的な健康被害が明らかにされていません。 多くのプラスチックは環境中や人体内で分解されません。一例として、ベースがプラスチックからできている「ガム」を誤飲されたことがあるかもしれませんが、ガムベースは体内で消化吸収されないため、排泄されます。最近では大気中の浮遊するマイクロプラスチックに対する危惧も指摘されていますが、これらはタイヤ、ブレーキ、アスファルトの摩耗により発生するものが多いとされます。このように普段意識しないところにプラスチックがあり、私たちは自然とそれに触れているという現実があります。

プラスチックの問題

近年、プラスチックの生産量が著しく増えています。発展途上国を中心として、人口が増え、生活が豊かになることで大量のプラスチックが消費されるようになりました。プラスチックの価格低下もプラスチックの普及を後押ししました。
1960年代初頭、ポリプロピレンは(当時の物価で)400円/kg以上もする高価なものでしたが、その後石油化学プラントの増設による大量生産・生産効率向上によるコストダウンや、輸入石化原料の値下がりなどの影響を受け、2010年代には100円/kgを切る価格まで下落した時もありました。最近では国際情勢や円安等の影響から約250円/kgまで上昇することもありましたが、プラスチックの著しい普及は、このような全体的な価格低下のみならず、その間のプラスチックの性能や成形技術の発展によりプラスチックが幅広い用途で使われるようになり、様々な新製品が生み出されたことも要因となります。

プラスチック製品は、使用後に「プラスチックごみ」として分別回収されることが多く、一部はリサイクルされています。PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルはプラスチックごみとは別に回収されており、回収されたPETは水平リサイクルあるいはカスケードリサイクルにより、ボトルやシート、繊維等として再利用されます。一方、分別回収されているとはいえ、プラスチックごみの再利用は容易ではありません。プラスチックの主要用途であるフィルム・シートを用いた「食品包材」は、包装加工性の向上や食品の劣化を防ぐため、ラミネート等により複数のプラスチックフィルムを多層化しているため、材料としての再利用が困難です。最近、フィルム・シート分野ではモノマテリアル化技術の開発が進んでいますが、食品衛生の観点から多層材料からの脱却は容易ではありません。

プラスチックの課題

では、このようなプラスチックの問題をどのように解決すれば良いのでしょうか。プラスチックは軽量で、幅広い性質を有し、それに対応した成形技術があります。多くのプラスチック製品は技術者が知恵を結集することで生み出され、その結果として私たちの生活の利便性を大きく向上させました。その際に忘れられていたことは、プラスチックのリサイクル性を組み込んだ製品開発です。安価で様々な形状に成形加工でき、それらをラミネート等で組合わせた製品には、プラスチックを資源として再利用するという観点が抜けていました。

現在、市販されているさまざまなプラスチック製品をリサイクル可能なものに再設計し、代替素材や成形加工の見直しから再開発することは、現在の技術レベルでは無理だと思われます。現在、プラスチックリサイクル技術の開発に、大手化学企業やエンジアリング企業がしのぎを削っています。消費者目線からのプラスチック使用量削減対策として、小売業やブランドオーナー企業が脱(減)プラスチック製品への置換えに熱心に取り組んでいます。

プラスチックが開発・実用化され、後先を考えずに普及・発展させたことで人類が享受した大きなメリットの反動に、私たちは直面しています。一方でコロナ禍においては、シングルユースのプラスチック製品の良さ・必要性を再認識することになりました。プラスチック問題の解決は一筋縄では行かず、時間をかけて問題点を少しずつ解決するしかありません。技術の発展に伴って2050年までにプラスチックの資源循環を完成させ、ゼロエミッションにつなげることが求められます。

大阪大学 宇山教授と考える
「プラスチックのこれまでとこれから」全6編+番外編

  1. 1.どうしてプラスチックが使われているの?
  2. 2.プラスチックの問題と課題
  3. 3.課題解決技術(1)生分解性プラスチック
  4. 4.課題解決技術(2)バイオマスプラスチック
  5. 5.課題解決技術(3)ケミカルリサイクル
  6. 6.プラスチック資源が循環する社会に向けて【完】
  7. <番外編>

  8. ■ ゼロカーボン社会とごみ処理
  9. ■ ベトナムにおける廃プラスチック活用の現状
  10. ■ プラスチックごみに関する小学生向けの環境教育

profile

宇山 浩(うやま ひろし)

大阪大学 工学研究科

応用化学専攻 工学博士

        

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