身の回りのプラスチック製品の未来

2050年のプラスチックのあるべき姿として、バックキャスト的に考えると、全てのシングルユースのプラスチック製品にリサイクル性が搭載されており、使用後は家庭や職場で100%分別され、回収されているでしょう。使用期間が比較的短く、単一素材で作られていない歯ブラシなどの日用品は、今と異なる製品に置き換わっているのかもしれません。
食品包材は、完全に分別回収して再利用する社会システムに対応するため、食品の販売形式そのものが大きく変貌し、それに適したリサイクル可能なプラスチック製品が包材として使われると予想しています。すなわち、抜本的な食品の供給方法を変えることで、初めてプラスチックを容易に回収できる社会システムが構築されると考えています。

現行の延長線上では、プラスチックに完全なリサイクル性を搭載することは困難でしょうし、食品の安全衛生の面からも、多層フィルムによる包装を止めることは容易ではありません。このように、プラスチック問題を「完全資源循環」の観点から鑑みると、フォアキャスト的なアプローチだけでは解決できない部分が多いと思われます。

求められるプラスチックリサイクル技術

プラスチックは成形方法により、求められる分子量(粘度)が異なります。プラスチックは成形時や使用時に、高分子鎖の切断等による劣化(分子量低下)が少なからず起こります。フィルム・シート用途(押出成形)のポリオレフィンの分子量は、射出成形グレードよりも大きく、回収したフィルムごみから射出成形によってパレット等が作れます。
このように廃プラスチックを利用した射出成形品の開発・実用化は、プラスチックの資源循環の一翼を担える一方、適用範囲が限定されます。残念ながら、フィルム・シート用途におけるリサイクルプラスチックの活用は「ごみ袋」以外はあまりありません。今後は、できるところから廃プラスチックのマテリアルリサイクルを推進し、プラスチックの資源循環を見える形で表現することが重要と思います。

以前にケミカルリサイクルの新潮流としての、廃プラスチックの熱分解・油化を伴うケミカルリサイクルを紹介しました。塩素系樹脂が混ざることへの対応技術や、触媒を利用した低温分解技術が注目されています。廃プラスチックのリサイクルにおけるもう一つの課題は「回収方法」です。廃プラスチックの多くはかさ高く、軽いために輸送にコストがかさみます。現状は自動車や家電の廃品からの、集めやすい廃プラスチックがリサイクルされていますが、廃プラスチックをどのように効率的に集め、大規模なケミカルリサイクル工場に運搬するか、社会制度の構築を含めた議論が必要です。ケミカルリサイクルの技術革新とともに、廃プラスチックの回収システムの早期構築が望まれます。

いま、私達にできること

プラスチック問題の解決を議論する際には、①時間軸、②スケール、③戦略に分けて考える必要があります。海洋プラスチックごみをはじめとして、プラスチックに関わる諸問題は緊急に取組むべきですが、これら三つのことを意識しないと方向性が定まりません。

プラスチック問題の難しいところは、今すぐ実行できる抜本的な解決策が無く、プラスチックの完全資源循環に向けた戦略も、そのための技術開発が未だ基盤レベルであり、広範囲に社会実装されるのはかなり先になってしまうという面と、一方で、海洋プラスチックごみをはじめとする環境対策は、何らかの手を早期に打ち、少しでも環境を改善するアクションを取ることが、社会的に求められているという面があることです。

最近、環境を意識したプラスチック素材が多く発表されています。未利用あるいは廃棄されたバイオマスをプラスチックに複合化した素材がよく知られており、例えば米粉、コーヒーかすを添加することで、プラスチックの使用量を減らすことができるだけでなく、バイオマスの利用により脱炭素(カーボンニュートラル)に貢献できるというものです。一方で、マテリアルリサイクル技術が本格的に社会実装されると、リサイクルされた素材の物性・加工性の観点では、このような非プラスチックの添加は好ましくありません。

これは一例であって、上記で述べた三つの論点を考慮すると、短期的であるにせよ、環境を意識したプラスチック素材の導入は、プラスチック問題の解決、特に私たち一人一人のプラスチック問題への関心の高まりにつながると考えています。そして長期的には、シングルユース用途のプラスチック製品は、資源循環利用の流れに適応すべくモノマテリアル化されていくでしょう。

大阪大学 宇山教授と考える
「プラスチックのこれまでとこれから」全6編+番外編

  1. 1.どうしてプラスチックが使われているの?
  2. 2.プラスチックの問題と課題
  3. 3.課題解決技術(1)生分解性プラスチック
  4. 4.課題解決技術(2)バイオマスプラスチック
  5. 5.課題解決技術(3)ケミカルリサイクル
  6. 6.プラスチック資源が循環する社会に向けて【完】
  7. <番外編>

  8. ■ ゼロカーボン社会とごみ処理
  9. ■ ベトナムにおける廃プラスチック活用の現状
  10. ■ プラスチックごみに関する小学生向けの環境教育