「ESGデューデリジェンス」における生物多様性

企業経営においてESG(環境・社会・ガバナンス)の重要性が高まっています。ESGは企業の長期的な価値創造に影響を及ぼすと考えられ、M&Aの場面においても、ESG観点からの調査、ESGデューデリジェンスの実施が求められています。そして、ESGの広範な領域においても、生物多様性に着目した動きが出てきています。

ESGデューデリジェンスとは

買収を検討している企業が、買収対象となる企業(対象会社)について事前調査を行うことをデューデリジェンス(DD)と言います。DDは、対象会社の価値を明らかにすることを目的とするもので、企業の財務状態や正常収益力などを調査する財務DDのほか、税務DD、ビジネスDD、法務DDなどがあり、M&Aの状況に応じて複数の観点を組み合わせて実施することが一般的です。

近年は、M&A検討時に対象会社のESGに係るリスクおよび機会を調査するESG DDが重視され始めています。ESG DDでは、対象会社にとって重要となる「ESGの領域」を特定したうえで、「リスク」および「機会」を把握したり、「ガバナンスの整備状況」を調査したりします。

ESGデューデリジェンスのポイント

ESG DDの実施では、①適切な調査対象領域の特定、②バリューアップ機会の着目、という2点がポイントになります。

①については、ESGは数多くの分野にまたがるため、M&A検討時の限られた時間内にすべてを詳細に調査することは困難です。そのため、対象会社にとって特に影響が大きいと考えられるESG領域に絞って調査を行うことが必要です。対象会社の事業内容やバリューチェーン、活動地域などを踏まえ、調査領域を設定することが効果的なDDに繋がります。

②については、対象会社が抱えるESG観点のリスクの把握だけではなく、バリューアップの機会にも着目することが重要です。企業活動による環境汚染や人権侵害などの負の影響に批判が集まる事例が散見されるように、ESGは企業活動にとってのリスク要因として捉えられることが多いと考えられます。一方で、サステナビリティに配慮した製品・サービスを提供するなどのESGへの積極的な取り組みによる事業成長など、企業にとっての好ましい機会に繋がることもあります。ESG DDでは、対象会社のリスク抽出のみに留まらず、ESG観点で経営や事業の改善・変革を行うことによる、企業価値向上の可能性にも着目することが重要です。

生物多様性に関連するリスクと機会

ESG DDにおける生物多様性に関連する「リスク」と「機会」にはどのようなものがあるでしょうか。

「リスク」としては、生態系へ負の影響を及ぼすような自然資本の過剰利用や土地利用の変化などがあります。例えば、工場からの排水による水質汚染、水資源の過剰利用、農地確保のための森林伐採、化学肥料などの不適切な使用による土壌汚染などが挙げられます。生物多様性を棄損するような事業活動を行っている会社は、ブランドイメージの悪化、取引の停止、行政指導や訴訟の発生、地域住民・地域社会との関係悪化、従業員のロイヤリティ低下などを招く可能性が想定されます。

一方で、「機会」としては、責任ある調達や生産に関する各種認証制度の取得による透明性向上の取り組みや、植物工場や人工培養肉など自然資本への依存を緩和する取り組みが挙げられます。これらの「機会」に積極的に取り組むことで、ブランドイメージや事業の持続可能性の向上を図ることができます。
広範なESG領域のうち、対象会社のビジネスにとって生物多様性が重要と認識される場合は、ESG DDにおいて生物多様性への取り組み方針や状況を調査項目に含め、投資意思決定に資する情報とすることが重要です。

今後の展開

生物多様性や自然資本は、社会や経済活動の基盤です。企業活動においても、生物多様性への配慮が企業価値に対して、益々重要な影響を与えるようになっています。生物多様性に関する情報開示の枠組みの整備も進んでおり、今後より一層の取り組みが求められています。

さらに詳しい情報は、『ネイチャーポジティブ経営の実践 – 次なるサステナビリティ課題「生物多様性」とは -』を是非ご参照ください。

画像提供:PwCアドバイザリー合同会社

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神吉 省吾

PwCアドバイザリー合同会社
<専門分野>サステナビリティ、ファイナンス
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