3つのシナリオでエネルギー需給の将来描く

IEAは、石油輸出国機構(OPEC)に対抗して、輸入国側の石油の安定供給を図るための取り組みを行う国際組織として、オイルショック後の1974年に設立されました。IEA加盟国は石油備蓄を義務付けられ、供給不安時に協調します。
そのIEAが編纂するWEOは、エネルギー市場の中長期展望を分析し、政策助言を行うレポートであり、1977年から出版されています。
IEAの分析は再エネや水素などを軽視しているとして、環境団体や科学者、投資家から批判を受けていましたが、2015年に事務局長に就任したファティ・ビロル氏の指揮のもと、再エネや水素を重視する分析にシフトしており、近年のWEOは、エネルギー市場や技術の主要な動向を調査・分析し、エネルギー投資と開発に関する中長期の方向性を3つのシナリオに沿って示しています。
シナリオは順次改訂され、現在は次のものが使用されています。

■公表政策シナリオ(STEPS: Stated Policy Scenario): すでに公表や実施がなされている各国政策に基づく
■公約シナリオ(APS: Announced Pledges Scenario): 各国が設定した意欲的な目標が達成されるとの仮定に基づく
■2050ネットゼロシナリオ(NZE: Net Zero Emissions by 2050 Scenario): 2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するのに必要な道筋

出典: IEA, World Energy Outlook 2023


ウクライナ侵攻が再エネ転換加速を後押し

WEO 2023では、化石燃料の需要が2030年までにピークを迎えるとしています。ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰が再エネへの代替を促し、化石燃料時代の終焉を準備することになったものと分析しています。再エネへの投資は2020年に比べ40%も増加し、2030年までに化石燃料の比率は80%から73%まで低下すると予測しています。

この予測の背景には、米国ではインフレ抑制法(IRA)により再エネや脱炭素化に多額の資金が配分され、自動車市場でもEVのシェアが増え、2030年には米国の新車の50%がEVとなる見込みであることや、過去10年間、原油需要と石炭需要の大半を占めていた中国が、成長率の鈍化により化石燃料の消費が下がる一方で、風力や太陽光発電の急速な導入や、EV販売で世界の半分以上を占めるといった伸長により、中国が世界の脱炭素をリードすることへの期待などがあります。

エネルギー関連からのCO2排出量は、2025年までにピークアウトすると予測されていますが、STEPSシナリオではその後も高水準にとどまり、2100年までの平均気温上昇は1.5℃目標を大きく上回る見込みです。一方、APSシナリオでは2050年までに排出量が減少し、2100年の世界気温上昇は初めて2℃を下回ると予想されています。

出典: IEA, Net Zero Roadmap 2023 Update


ネットゼロへは投資の急拡大が不可欠

IEAは、2050年にCO2排出ネットゼロが達成される未来を想定し、それに必要なエネルギー需要と変化を示す「ネットゼロシナリオ」を公開し、クリーンエネルギー技術の成長により、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えることが可能であると前向きなメッセージを送っています。また、太陽光発電とEVの普及により、2050年までに必要な排出削減量の3分の1が達成されるとの予測や、原子力の容量も増加し、電気が未来の石油となるとも述べています。

水素やCCUSについては技術の進展が遅れており、普及の見通しは下がっているものの、これらの技術は中長期において重要な役割を果たし、排出量削減の5分の1を担うとしています。

ネットゼロを実現するためには、再エネ発電容量の増加、エネルギー効率の改善、EVとヒートポンプの普及、メタン排出量の削減などが必要であり、新興国や途上国への投資を拡大し、クリーンエネルギーへの支出を増やす必要があります。
これらの努力により、化石燃料の需要は減少し、CO2排出量も削減されるものの、石油や天然ガスの消費はゼロにはならず、既存の資産やプロジェクトには継続的な投資が必要であるとしています。

注: NZEシナリオの国別データは公開されていない
出典: IEA, World Energy Outlook 2023, Annex A, Free Dataset – Regionsから(株)ゼロボード作成


まとめ

IEAのレポートは、2050年までにネットゼロを達成し、地球の気温上昇を1.5℃に抑えるための道筋を示しています。
このレポートは、各国に対して自信を持って脱炭素技術の普及を推進し、大胆な投資を促すよう呼びかけています。化石燃料の削減の方向性が明確になり、今後はクリーンエネルギーの増加と化石燃料投資の減少に向けたトランジションが重要な議論となるでしょう。ソフトランディングを実現するためには、これらの取り組みを順序立てて進める必要があると考えます。
<出所先>
International Energy Agency (IEA), World Energy Outlook 2023, OECD.
IEA, Net Zero Roadmap 2023 Update: A global pathway to keep the 1.5℃ goal in reach, OECD.
資源エネルギー庁「IEAのレポートから、世界のエネルギーの“これから”を読みとく」、2019年12月19日
Reuters, “Investors step up pressure on global energy watchdog over climate change”, 18 November 2019.
有馬純「IEAはエネルギーの現実を見据えたメッセージを」、国際環境経済研究所ウェブサイト、2020年5月27日
木内登英「エネルギー危機と中国経済の減速が加速させる世界の脱炭素(IEA見通し)」、野村総合研究所ウェブサイト、2023年11月7日
Brad Plummer, “Peak Oil Is Near, Energy Agency Says, but Climate Change Is Far From Solved”, New York Times, 26 September 2023.