公開日:2024/04/11

最終更新日:2024/04/15

「欧州電池規則」がもたらすインパクト②
- サプライチェーンを繋いだCFP算定 -

前回の①では、欧州での電動車販売動向や、欧州電池規則の概要に焦点を当てて、社会や産業にもたらすインパクトについてレポートしました。
今回は、同規則において要求されるカーボンフットプリント(以下、CFP)の算定に必要な事項や、サプライチェーンのデータ連携、Ouranos Ecosystem、さらにGaia-X・Catena-Xなどの海外サプライチェーンデータ共有基盤について詳しく解説します。

欧州電池規則で求められるCFPとは

現時点で、求められる要件を調べる拠り所となるのは、欧州電池規則の原文や欧州委員会の研究機関である、Joint Research Centre(以下JRC)が作成した「Rules for the calculation of the Carbon Footprint of Electric Vehicle Batteries (CFB-EV)」のFinal draft、そして、製品のライフサイクルにおける環境影響の算定と報告についてまとめられた「Product Environmental Footprint Category Rules(PEFCR)の電池版「for High Specific Energy Rechargeable Batteries for Mobile Applications」のVersion 1.1 (February 2020)等がありますが、

まずは前回①で取り上げた、欧州電池規則のアウトラインをおさらいすると、CFPについては、
・算定・報告のスタートは2025年2月18日から※
・算定方法は製品環境フットプリントカテゴリールール(PEFCR)に準拠する
・各ライフサイクル(原材料、製造、流通、使用後)において算出する
・使用段階はメーカーの直接的影響下にないため計算から除外する
・第三者機関によるCFP値の認証が必要
・2026年8月18日からはCFP性能クラスの記載も必要
・2028年2月18日からは設定されたCFPの最大閾値を下回る必要あり。NGの場合EU域内での販売ができない
といった記述がなされています。

同規則に準拠するためのCFPの算定では。上記に加え『一次データを使用』する必要があり、算定事業者はSC上流の事業者からデータを収集し、自社の情報と組み合わせて「Cradle to Gate」で算定を行う必要があります。
※今後変更の可能性あり


出典: 欧州電池規則を基に(株)ゼロボード作成

蓄電池のサプライチェーンと、求められる一次データ

サプライチェーンをつないでのデータ連携を要求し、電池が作られ、使われ、リサイクルされ、最終的に処分される過程の、どこにCFPの削減余地があるのか? また人権デュー・ディリジェンス(DD)の観点ではどこに課題があるのか? 可視化の先のアクションまでを見据え、欧州電池規則は設計されています。

蓄電池は、​​正極、負極、セパレーター、電解液、電池セルケース等を組みあげて製造されます。
JRCレポートによると、CFP​の算定にあたっては、各部素材の製造過程におけるCO2排出量を足し上げていくことが必要であり、下記に記載の部材を製造している企業には、CO2排出量の取得に関する一次データの取得が求められると想定されています。
また、ここに同規則等で記載のある内容もあわせると、蓄電池サプライチェーンで必要な一次データ連携は下図の通りとなります
ではどうやって、このように広範な事業者たちの1次データを連携していくのでしょうか。
次の章で解説していきます。


出典: 欧州電池規則を基にゼロボード作成


日本のデータ連携基盤構築に向けた動き

同規則第39条の「Obligations modules」には、『電池セル及び電池モジュールの供給者は、本規則の要求事項を遵守するために必要な情報及び文書を提供しなければならない』とあります。
しかし、情報を提供する側からすると、CFP情報に関するデータを全て開示することは、自社の生産工程に関する情報を納品先に開示することにもなるため、極力避けたいはずです。
また、情報を依頼する企業側としても、近年サプライチェーン自体がますます複雑化しており、下流企業が上流の情報を全て掌握することはほぼ不可能です。

この状況下、同規則への対応を最初のユースケースとして見据え、日本で目下開発が進められているデータ連携の仕組みが「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム」です。
どのような構造をしていて、同規則への対応において、どのように機能するのかを以下に示します。


出典: 欧州電池規則を基にゼロボード作成



CFP情報を提供する企業は、自社で管理しているERPやBoM、各種社内システム等からの情報を活用し、CFP算定を行い、その情報をデータ連携システム層に置きます。
次に、サプライチェーン上の下流となる企業が、その情報を一次データとして取り出し、また自社でのCFP算定を行っていく、という流れが繰り返されていくことで、同規則対応で求められる、サプライチェーンを一次データで繋いだCFP算定が可能となります。

グローバルで進む、データ連携基盤の構築

グローバルでみると、サプライチェーンデータ連携に向けた取り組みは様々です。
米国のように GAFAM をはじめとしたメガプラットフォーマーが企業間データ連携を推進し、政府としてのデータ集積・利用への関与が限定的な場合もあれば、他方、中国のように巨大な内需とコスト安を背景に、官によって統制・保護をしながら民間企業(BATやTMD等)を育て、プラットフォームを構築していくという戦略もあります。

欧州は、巨大な欧州経済圏に対し、官主導で社会課題にフォーカスしたテーマを設定し、域内企業に有利なルール(デジュール・スタンダード)の策定をすると共に、データ主権を背景に域外からの参入障壁を設けつつ、域内データ流通を促進しています。
具体的には、自動車業界をカバーする Catena-X や、製造業向けの Manufacturing-X 、 Smart Network等がありますが、各種イニシアティブの元となっているのは「Gaia-X」です。
Gaia-Xの目的は『​​信頼できる環境でデータが共有され、利用できるエコシステムを確立すること』とあり、ウラノス・エコシステムとコンセプトは似ています。

今後も、各国・地域で様々なサプライチェーンデータ連携基盤が構築され、それらは相互に連携していくことが想定されますが、国家間のエコシステムの連携タイムラインは現時点では定まっていません。
2025年2月18日から必要となる、欧州電池規則対応におけるバッテリーのCFP算定・開示の多くは、自社でCFPを算定し、その情報をウラノス・エコシステムに連携していき、サプライチェーンをつないでいくことになると思われます。
次回は、一次データの使用と同様に求められている、「第三者検証」等について掘り下げていきます。

(株)ゼロボードの「欧州電池規則」シリーズ

  1. 1.「欧州電池規則」がもたらすインパクト①-概要とCFPの算定要求-
  2. 2.「欧州電池規則」がもたらすインパクト②- サプライチェーンを繋いだCFP算定 -
  3. 2.「欧州電池規則」がもたらすインパクト②- 上市までのプロセスと適合性評価 -
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profile

小野 泰司

<所属>株式会社ゼロボード 営業本部 本部長/Zeroboard(Thailand)Co.,Ltd. 取締役
<専門分野>自動車領域

<紹介文>トヨタ自動車にて新型車企画・労働組合副執行委員長・豊田前社長のトップサポート渉外チーム等経験。2022年7月より現職